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インコのアイコちゃんの話 [GBAノベル参加作品]


ペットを飼うのはいつも突然だった。
犬を飼ったときも衝動買いだったけれど、
インコを飼ったときもそうだった。

住んでいたビルの上の階に住む若い夫婦がセキセイインコを飼っていた。
そのツガイのインコに子供が生まれて、それを貰い受けることになった。
黄色と青の二羽。雄だか雌だかわからないのでアイコちゃんとユーちゃんと名づけた。
結局最後までどっちかわからなかった。
二羽を貰い受けてどれくらいだっただろう。
カゴから出して自由に飛び回らせていたのだが、
不幸にも足の下に飛び込んできて、ユーちゃんはショック死してしまった。
神社の庭に埋めさせてもらった。
それから一羽になったアイコちゃんは人間と化した。

インコがくしゃみをしたり、あくびをしたり、首を後にまわして寝たりするのを
初めて知った。そしてアイコちゃんはよくしゃべった。
指に乗って唇にくちばしをつけてしゃべってもらうのがスキだった。
「アイコちゃんは可愛い小鳥ちゃんね」とか
「とぉてもいい子ちゃんね」とか甘い文句が好きだった。
そうして、カゴの中や人の背中で、真似をしてしゃべるのだった。
「アイコちゃんはかわいーーーーことりちゃん!」とか
「はぁっくしょん!」とか「だめでしょ!どーしてそーなの!」とか。
殆どがその声色から、母の真似だった。

アイコちゃんは何でも食べた。
食事時に外に出してやると、家族の肩に止まって眺めたあと
お椀の淵に止まって味噌汁を飲んだり、ご飯をついばんで
ぴっと飛ばしたり、おかずの上を歩いて反対側にいったり。
べたべたの足で歩かれたり頭のてっぺんに止まって
真ん丸いフンを落とされたりしても、家族は怒らなかった。
インコのフンは丸くて中が白で外が黄緑で匂いもなく、
ほっとけば乾いてぽろっと取れた。でも時々学校で
友達に発見されるとちょっと困ったけれど。
またアイコちゃんは苺が好きだった。
それも種が好きなので、くちばしでつついては汚く食べ散らかした。
あるときお客様がきて、当然一番赤くて美味しそうな苺を
お客様に出したので、目ざといアイコちゃんは家族の苺を見限って
お客様のに手を出した。まったくグルメでワガママなインコだった。

母は洋品店を経営していて、昼はアイコちゃんも店番した。
あるときちょっと驚いた拍子に道路に飛び出してしまったことがあった。
私は思わず車の前に立ちはだかって車を止めて、そっとアイコちゃんを手にのせた。
寿命が1年は縮まったじゃないか!
そんなやんちゃな?アイコちゃんがとことこと勝手にお散歩にでたことがあった。
通りがかった人についていってしまい、家出人(鳥)となった。
家族総出で近所を探した。ベランダに鳥かごがあると
アイコちゃん!と呼びかけてみたりした。
数日後お店に来た人から、鳥を拾った人のうわさを聞いた。
急いで菓子折りを持って引き取りに行った。

もうひとつアイコちゃんの思い出で印象に残っているのは、納豆事件だ。
私がお昼に納豆巻きを食べていたときだった。
巻きの後から納豆がぽろっと落ちた。
落ちた気がしたのだけれど、テーブルの上にはなかった。
ふとテーブルの上を走り回っていたアイコちゃんを見ると、
なんと、背中に納豆を背負っていた!
捕まえて取ってやってから納豆臭いので
水道の水で洗ってやったのだが、かえって鳥臭かった。
水にぬれた鳥は臭い。アイコちゃんは水浴びが苦手だったし。

そんな愛嬌たっぷりの、家族の一員となったアイコちゃんとの生活も
受験を乗り越えたり、祖母の死を乗り越えたりして10年がたった。
インコとしては長生きなほうらしい。人間では80歳くらいだそうだ。
アイコちゃんは一度布団の下敷きになって骨折して
医者に行ったが、それ以外は元気な鳥だった。
けれどももう歳かな、と思うほどに具合が悪くなり
もうだめかもしれないと感じたその日、私は会社を休んだ。
アイコちゃんを手の中に包んでずっと見守っていた。
時々苦しそうにしていたが、手の中で安心しているように見えた。
午後になってさすがにお腹がすいたので、
アイコちゃん、おねえちゃんご飯食べるからちょっと待っててねと
キッチンに行くと、アイコちゃんはピーピーと鳴いて私を呼ぶのだった。
結局何度も往復しながらなんとか作って、片手でアイコちゃんを抱きながら
片手で遅いお昼ご飯を食べた。

夕方になったころ、アイコちゃんは苦しそうにゼィゼィ言い出した。
必死に声をかけたけれど、小さな鳥の命は風前の灯だった。
最後に、静かに横たわったアイコちゃんは
くるっと上を向いて真ん丸い黒い目で私を見て、
「ありがと」と言って目をつむった。 私にはそう思えた。
それから母が仕事から帰るまで、泣き続けた。
母が帰ると二人で泣き続けた。
本当に家族みたいに思っていたインコだった。
アイコちゃんの遺骸は大きな植木鉢に埋めた。
今も実家のベランダにその鉢はある。


10年物語 [GBAノベル参加作品]

人生をリセットして生まれ変わりたい。
ひさみは何度もそう思って生きてきた。
「生まれてからいままでろくなことはなかったわ。」
まだそんなに生きてないくせに、ひさみはよくそう思った。
でもそれはすべて自分のせいなのだ。

両親と妹の四人家族でごく普通の家庭に育ったが、両親は共働きで忙しかった。
それでも二人とも子供には出来る限りの愛情をかけて育ててくれた。
けれども物心ついた頃から、おとなしくてどちらかといえば根暗な感じのひさみは
その愛情を素直に受け止めることができなかった。
幼稚園に入った時、ある男の子にいじめられたのがトラウマになって、
益々ひっこみじあんになってしまった。
おまけに2つ違いの妹は可愛くて、明るくて、抜け目がなかった。
ひさみはいつもひけめを感じずにはいられなかった。

当然小学校でも友達は出来ず、そしていじめっ子の男の子と同じクラスになってしまった。
「ひさみの泣き虫~!」彼はいつもひさみにちょっかいを出した。
先生に頼んで2年からは別のクラスにしてもらった。それでも友達はできなかった。

10歳の時、ひさみは私なんて生まれてこなければ良かったんだわ、と子供心に思った。
家出をして、そのままどこかで死んでしまおうかと考えた。
しかしそれすらひさみにはできなかった。
そして初めて子供ながら、このままじゃいけない、と思った。
友達が欲しかった。寂しかった。
その頃学年が上がって、クラス替えがあった。
新しいクラスになって思い切って友達を作ろうと試みたが、
誰も相手にしてくれなかった。
一人ひさみは孤立していた。

結局何も変わらないまま、
それからの10年もろくなことはなかった。

勉強にも身が入らず、希望の中学には入れなかった。
小学校の延長のような生活が続いたが
それでも中学2年の時、ある男の子を好きになった。
彼はクラスの人気者でスポーツも万能だった。
彼はひさみに対しても優しかった。話しかけてもくれた。
今度こそ違う自分になるチャンスだわ!
思い切ってその子にラブレターを書いて渡した。
引っ込み思案な私とはさよならするんだ!と自分を励まして。
次の日休み時間に校舎の裏に呼び出された。
これ、と手紙を付き返され、そのうえ追い討ちをかけるように
その男の子は言った。「きもいんだよね。」 何も言えなかった。
彼は人気者で、誰にでも優しかっただけなのだった。
生まれ変わるどころか、ひどく傷ついた自分がそこにいた。

中学を卒業すると なんとか滑り止めの高校に入ったが、その学校は荒れ果てていた。
相変わらず友達もできず、勉強にも身が入らず、根暗で不良にも相手にされず
そしてもう誰も好きになることもなかった。ただ月日が流れた。
家に帰ると両親は忙しく、妹が友達を連れてくるので、家にもいられなかった。
私の居場所はどこにもない。。。

大学は最初から諦め、就職も決まらず、かといって家にもいられず
しかたなく住み込みのアルバイトをしてみたが、長続きしなかった。

この20年、楽しいことなんてあったかしら。
なんにも楽しいことなんてなかったわ。
でもそれはすべて、自分が悪いのだ、ひさみは思った。
そして、今度こそ生まれ変わろうと決心した。 それは20歳の誕生日の日だった。
これからの10年はまったく違う人生を生きるのだ!

どうやって?
いまさら勉強をする気になれなかった。
旅に出るのもいいが、お金がいる。
整形でもしようかと思ったが、それもお金が必要だった。
両親に頼らず、自分の力だけで生まれ変わる。
どうしたらいいんだろうか。

そうしてひさみが考えたのは
すべてを捨てて、路上に生きることだった。
そう、浮浪者になったのだ。

路上生活は以外と快適だった。
まわりの浮浪者はみな、珍しい若い女というだけで親切にしてくれ
食べ物を分けてくれたし、陰気で暗くても誰にも気兼ねしなくてもよかった。
一日誰とも話をしなくても済んだし、人目も気にならなかった。
時々日雇いの仕事をして、風呂に入った。
毎日朝から晩まで好きなことをして過ごした。
あちこち放浪してみたりもした。自由気ままに生活できた。
ああ、なんて快適な暮らしなんだろう!ひさみは思った。
 
それから1年が過ぎた。
ある日商店街をうろついていると、昔ひさみに「きもいんだよ。」と言った男の子を見かけた。
向こうは気づかなかったが、会社の上司みたいな人と一緒だった。
彼はひどく怒られながらおどおどと上司に頭を下げていた。
人にえらそうに「キモイ」なんて言っていた彼がね、いい気味!
でもひどいことを言われたことをずっと恨んでいたはずなのに、
なんだか、可哀想だなと思った自分に驚いた。

また1年が過ぎた。
公園で日向ぼっこをしていると今度は高校の同級生とばったりあった。
卒業してそんなに経ってないからか、ひさみのことを覚えていたのには
びっくりした。たんなるクラスメートだったけど、彼女はその頃とはちがって
親しげな様子でひさみの隣に座って、打ちあけ話を始めた。
卒業してすぐに結婚したの。でももう別れるつもり。と彼女は言った。
暴力がひどくてね。こんなはずじゃなかった。
ボロを着たひさみに心を許したのだろうか。
そして何があったのかと聞かれたけれど、ひさみは色々あってね、と
詳しくは話さなかった。
彼女は元気でねと言って帰っていった。友達っていないけど、
こんな感じなのかな。もっと心を開いて彼女と話して置けばよかったと思った。

そうして1年が過ぎた。繁華街のレストランのゴミを漁っていると
なんとあの幼稚園からずっといじめられてた子にばったりあった。
ひさみはその子を覚えていたが、すっかり変わっていたひさみを
どうしてわかったんだろう。ひさみがいぶかっていると
彼は驚くべきことを言い出した。「あのころはゴメンネ」
「僕ね、本当はひさみちゃんが好きだったんだよ。」
そんなはずないじゃない!と思ったけど、
男の子は好きな子をいじめたりするって誰か言ってたっけ。
そして彼はまっすぐな目で、そんなことしてちゃいけないよって言ってくれた。
不思議なことにあの頃の思い出がちょっとだけ暖かい色になった。

次の1年が過ぎた。
浮浪者になってから色々とよくしてくれたおっちゃんが寒さで死んだ。
身内もなく、葬式もなかった。だれにも見取られずに死んでしまったことが悲しく思えた。
そして自分が死んだら悲しんでくれる家族がいることを思った。
家族は探しているだろうな。浮浪者になって初めて「家に帰りたい」と思った。

それから1年後、ついに妹に見つかった。
「ずいぶん探したのよ、おねえちゃん」と妹は泣きながら言った。
「ごめんね」それしか言えなかった。
ずいぶん話し合ったけれど、ひさみは帰る気になったら帰るからと
妹の頼みを聞かず、妹もあきらめるしかなかった。
妹が帰ってからひさみは、両親と妹、心配してくれる家族がいるから
どこかで帰れる場所があるという安心感があって、自分は逃げていられるんだと思った。
そしていなくなられたほうがどんなに辛いかわかった気がした。

それでも1年、ひさみは浮浪者を続けていた。ただ妹にだけは連絡した。
彼女は結婚して子供が出来ていた。
あるとき妹がやってきて「母が入院したの。心配はないけど、お見舞いに行ってあげて。」
と言った。いまさらどんな顔して会えるのだろう、働きもせず浮浪者になった娘が。
それでもひさみはましな服に着替えて病院に行った。
だけど、やっぱり会う事はできなかった。
病室の前になけなしのお金で買った花を置いてきた。手紙と一緒に。
「私は自由に生きています。心配しないでください」
心の中でごめんなさいとつぶやきながら、後ろ髪をひかれる思いで帰った。
その後妹から母は無事手術を終えて退院したと聞いた。
なんだか涙が止まらなかった。やっと今になって母の愛情を思い出した。
自分が受け止められなかっただけで、母はちゃんと向き合ってくれていたのに。

変わっていく自分を見つめてまた1年が過ぎた。
残り物を分けてくれていた食堂に泥棒が入り、
ひさみは事情聴取で警察に連れて行かれた。
担当者はひさみが泥棒だとは思ってなかったのだが、
この機会にその歳で女の子が浮浪者でいることを彼女に説教しようと思っていた。
父親と同年代の警察官の言葉が心にしみた。
他人でもこんなに心配してくれるのだから、両親の思いは、と思うと
自分の身勝手さが恥ずかしく思えた。
それでも帰れない。今はまだ。なんでかわからなかったけれど
ひさみはそんな気がした。でも悲しかった。

その後1年、穏やかに暮らしていた。
しかし街の浄化運動とやらで、住み慣れた公園を出なければならなくなった。
馴染みの浮浪者もみなちりじりになった。
ひさみはとりあえず近くの小さい公園に移った。
昼は子供とお母さんが遊びにくるので目立たないところへ行かなければならなかった。
ひっそりと生きていくことも難しいんだなと思った。
子供達の笑顔を見ていると自分も将来子供と公園で遊んだりするのかしら。
そんなささやかな幸せもいいものだなとおもったりした。
この歳にしてやっと自分の将来を考えるようになった自分を可笑しく思った。

そのあとの1年は変化の始めだった。
公園を出て簡易宿泊所に移り住み、日雇いの仕事をするようになった。
ともかく汗水たらして働くことに生きがいを感じるようになったのだ。
働ける身体があることを幸せに思った。

がんばって1年が過ぎた。宿泊所を点々としていたが、少しの貯金もできた。
ついに10年がたったのだ。浮浪者生活10年。
短いようであっという間の10年だった。
もういいだろう、ちょうどいい区切りだ。
この10年があればあとはどんなことでもでき、どんなところでも
住め、どんなものでも食べていかれる気がした。
そしてどん底の生活のなかで人とのかかわりあいの大切さ、
家族の大切さ、生きていくことの大変さ、命の尊さ、そんなものを
少しでも理解できた自分がいた。
ほんのちょっぴりだけど、自分に自信が持てたような気がする。

30歳の誕生日の日、ひさみは貯めたお金で買った小奇麗な服に着替えて、
両親に会いに行った。
10年も離れていたのに、好き勝手に生きてきた娘を
何もなかったように、暖かく迎えてくれた。
親のありがたさが身にしみた。そして心から大切に思った。
妹も喜んでくれて、彼女の家にも遊びにいった。
妹は文句を言うけれどやさしいご主人と可愛い子供。
幸せそうな妹を心から喜べる自分がいた。

ゆっくりとしかし自分の興味のある仕事を探して
始めはアルバイトとして小さな会社に雇ってもらった。
自分に自信が持てると人との会話も苦にならなくなった。
会社の人たちにも打ち解けることができて、仕事もやりがいがあった。
あの10年を経験したひさみはどんな仕事も一生懸命やることができたし、
楽しかった。そして正社員にしてもらった。自分が認められたのが嬉しかった。
充実した生活を過ごしているとどんどんと変わっていく自分がいた。
数年後、あのいじめっ子だった彼とまた偶然再会し、結婚した。

ひさみは30年を振り返った。
最初の20年は辛くて悲しい思い出ばかりだった。
でもそのあとの10年によってそれは穏やかな想い出に変わっていった。
変われなくて苦しんだ20年が思い切った10年で見違えるように変わった。
自分が変わるとこんなにも周りが見えてくるんだ。大切なものが見えてくるんだ。
そしてそんな変化をもたらした10年をとても懐かしくいとおしく思った。
浮浪者の10年、人は思い出したくないものだろう。でもひさみは違った。
大切な10年だったのだ。そしてその前の20年も含めて
よくも悪くも私の人生なんだと思えるようになった。

おわり






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